天山 コンパクトシュラフ  3シーズン     

     一昔以上前、テントと一緒に買った寝袋。コンパクトと名前がついているが、
    シュラフコンプレッサー*1で圧縮しなければ、枕ほども大きさがあるものだった。
    現在同社から同名で売られている製品は、はるかにコンパクトである。
    僕のものは確か重量900グラムほどで、30000円以下だったと思う。

     中身は羽毛。現在においても、羽毛の性能を超える化学繊維は存在しない。少なくとも僕は
    そう信じている。圧縮性、復元性、保温性、耐久性、全てにおいて羽毛が勝る。しかも軽量。

     化繊に唯一負けるのは、濡れに対して弱いところ。ゆえにゴアテックス製のシュラフカバー
    なるものが売り出されている。つまり寝袋用の防水カバーだが、テントがしっかりしていれば
    寝袋は濡れない。だから僕はシュラフカバーなど持っていない。

     だが、使用者たちに言わせれば、ゴアテックス製のシュラフカバーはとても良いらしい。
    重ねる分だけ当然保温力は増すし、夏などはそれだけで寝られるし、寝袋の汚れ防止にもなる
    ということである。

     僕は寒いときは夏用の薄い寝袋を重ねて寝ていた。上の写真でも、実は内側にもう一つの
    寝袋を重ねている。暑いときはそもそも足を広げて寝られない寝袋型のものに入って寝ないし、
    寝袋が汚れるのは外側ではなくて内側だ。
     まあ金があれば本当はほしいのだが、ゴアテックス商品は高いし劣化が早いので、
    僕の旅の装備には今後も加わらないだろう。


     *1 寝袋を収納した袋を、カップ状に縫製した布で上下にはさみ、数本のベルトで引き締めて圧縮する道具。
       これ自体がかさばるという欠点があった。現在の羽毛シュラフのコンパクト化は驚くべきものがあり、
       もうコンプレッサーなどは過去の遺物となってしまった感がある。


     

     モンベル U.L.スーパーストレッチTMダウンハガー#3     

     これは2005年のヨーロッパの旅に使った羽毛の寝袋。しばらく僕は、寝袋と正しく呼べる
    ようなものを旅に持って行かなかった。ふーすけと旅をするときは、薄手の羽毛布団と、
    ニュージーランドのスーパーで買ったおもちゃのような封筒型の化繊の寝袋を使っていたからだ。

     しかし久々に見た本物の羽毛寝袋は、驚くほど小さくなっていた。中綿の羽毛を包む布地が
    薄くなったおかげだろう。超軽量素材である羽毛を使う寝袋の重量の大半は、それを包み込むための
    布(生地)が占めている。丸めたときの体積にしてもそうだ。

     この#3は、重量645グラム。中綿(羽毛)量270グラム。収納サイズは約14x22cm。
    快適睡眠温度0℃〜。使用可能限界温度−10℃。23625円。

     もっとも、実際0℃で快適に寝られるかと言えば、そんなことはありえないと言いたい。
    よほど体脂肪率の高い人ならば別だろうが、標準的な体脂肪率の登山をする人や長旅の人間には、
    10℃くらいが快適の下限ではないだろうか。もちろん何を着て寝るかも重要ではあるが。

     僕が夏のヨーロッパの海抜2000〜3000メートルの山岳地帯で使用したときは、
    多くの夜はこの寝袋では寒かった。時に寒すぎて、まともに寝られないことさえあった。
    0℃を下回ったときは一度もないにもかかわらず。

     モンベルのカタログには、西日本の2000m級の冬山まで快適な睡眠を得られると書いてあるが、
    これを信用したらとんでもないことになる。もともと僕はこの中綿量で冬山は無理だと分かっていたが、
    まさか夏山でこれほど寒い思いをするとは思わずに買ってしまったのだ。
     夏の北海道でも、道東や礼文・利尻あたりでは寒いときがあるだろう。

     このような問題を解決するのは実に簡単で、一つか二つ上のクラスの寝袋を買えばいいのである。
    この製品で言えば、#2とか#1。あるいは軽量でかさばらない寝袋をもう一つ持っていくことだ。
    (と思っていたが、2008年の初夏の北欧では、この#3を二枚重ねで寝ても寒かった。気温は0度前後。)
 
     この製品でいいところと言えば、「ストレッチ」の名前が示すとおり、横方向に寝袋が伸縮するところだ。
    寒い雨の昼など、寝袋にくるまったまま「あぐら」をかけるのはいい。この一点で、僕はこの製品を勧めたい。
    もっとも寝た状態で「大の字」は無理だし、両足を肩幅にも広げられない窮屈さはある。
    それはマミー(ミイラ)型寝袋の当然の構造で、僕が寝袋を好きでない理由のほとんど全てがここにある。
   
     もう一つ良いところをあえて書いておけば、色である。赤、青、紺色くらいしかない他社の寝袋に対して、
    色がきれいだ。このシリーズは全8色。ただし色はそれぞれのクラス(温度対応レベル)で決まっており、
    必ずしも自分の好みの色が、自分の必要としている寝袋と対応していないのが難点。

     最後にどうしようもない欠点を一つ。羽毛、特にフェザーの飛び出しが多い。これは他社の製品でもそうかも
    しれないが、貴重な鳥の羽が減っていくのは、どんどん暖かさが逃げていくようで、精神衛生上にもよろしくない。


     断っておかなければならない。テントと違って、寝袋(シュラフ、スリーピングバッグ)には、
    大したこだわりを持っていない。寒くなく寝られれば、何でもいいと思っているからだ。

     つまり、野宿旅やキャンプだからと言って、なにも寝袋で寝る必要はない。羽毛の掛け布団を
    丸めて持っていってもいいし、暖かい場所を旅するなら、飛行機のエコノミークラスにあるような
    薄い毛布だけでも良いわけだ。車なら、それこそ何を持って行ってもいい。

     それでもここで紹介するのは、まず旅で重要なのは、「寝る」ことであるからだ。どうも初心者、
    あるいはキャンプをしたことがない人たちにとっては、建物の中以外で寝るのは大変なことらしい。

    「一人で(誰もいない場所で)寝ていて怖くない?」
    「寒くて寝られないんじゃない?」

     旅先で会った人に、尋ねられることだ。尋ねてくるのは多少なりとも野宿旅に興味を示す人であり、
    そうでない人は、旅人が一晩をどうやって過ごすかなど、全く想像もしたことがないのだろう。

     そう言えば、最初に僕がこういう旅をしたいと言ったときに親が一番心配したのは、僕が寝ている間に
    凍死するのではないかということだった。四月である。一般の人がいかに無知であるかが分かろうものだ。
    キャンプは真夏だけのものだと考えているのだ。

     僕は電車の中で寝るほうがよほど不安だ。どんな人間が隣に座っているかも分からない場所で寝るよりも、
    誰も来ない山の中で寝るほうが、はるかに安眠できる。

     もっとも、以前は日本は安全だった。かつて日本一周をしたときなど、わざわざテントよりも寒い隙間風の
    吹き込むバス停で寝たり、無人の寺の軒下やお堂の中で寝たりしたものである。
    そう、映画の中の、寅さんのように。

 

   寝袋の選び方 総論。


   1.必ずしも寝袋である必要はない。
   2.メーカーの快適睡眠温度、あるいは使用可能限界温度のプラス10℃が実際の値であると思って損はない。
   3.どうせ買うならば中綿が化繊よりも羽毛の寝袋。
   4.寝袋も年々進化している。

  

 

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